この業界は、「好きなことを仕事にする」という満足感が高い一方で、その情熱を逆手に取った**「やりがい搾取」**が横行しやすい土壌があります。また、業務の性質上、労働時間とプライベートの境界線が曖昧になりがちで、法的な保護が蔑ろにされやすいのが特徴です。
クリエイターとしての寿命を縮めないために、業界特有の法的落とし穴を知っておきましょう。
弁護士が懸念する、よくある「3つのトラブル類型」
「業界の常識」としてまかり通っていることの中には、法的に見れば完全に**「ブラック」**な慣習が多く存在します。
1. 裁量労働制の悪用(定額働かせ放題)
「『うちは裁量労働制だから残業代は込み』と言われたが、毎朝9時の朝礼は強制参加」
クリエイティブ職には「専門業務型裁量労働制」が適用されることが多いですが、これには厳格な要件があります。最大の要件は**「業務の遂行手段や時間配分を労働者の裁量に委ねること」**です。
- 違法のサイン: 上司から細かく指示される、出退勤時間が厳格に管理されている、会議への出席が義務付けられている。
- 実態: 時間の自由がないのに、「裁量労働制」という名目だけで残業代がカットされている場合、それは単なる**「違法なサービス残業」**です。
2. 下請法違反・買いたたき(制作会社の悲劇)
「クライアントからの理不尽な『明日までに修正』。断れず徹夜したが追加料金はゼロ」
特に制作会社(プロダクション)への転職で注意すべき点です。親会社や広告代理店(発注側)との力関係において、圧倒的に不利な立場に置かれることがあります。
- 下請法違反: 発注後に仕様変更を無償で強要する、代金を不当に減額する、支払いを遅らせる等の行為は「下請法」で禁止されています。
- 現場の疲弊: 法的には会社間の問題ですが、そのしわ寄せは全て現場のクリエイターの「徹夜」や「休日出勤」に転嫁されます。
3. 著作権トラブル(ポートフォリオ問題)
「転職活動で自分の作品を見せたら『守秘義務違反』や『著作権侵害』と脅された」
クリエイターにとって、過去の制作物は実績(ポートフォリオ)として次のキャリアに繋げる命綱です。
- 権利の帰属: 通常、業務で作成したものは「職務著作」として会社に権利が帰属しますが、著作者人格権の扱いや、自身のプロモーション利用の可否について契約が曖昧なケースが多々あります。
- トラブル: 退職時に「あれは会社の資産だから持ち出し禁止」と言われ、実績を証明できなくなるトラブルが後を絶ちません。
トラブルを回避するための「弁護士のアドバイス」
情熱を持って働くためにも、以下のポイントは入社前に冷静に見極める必要があります。
チェックポイント①:「裁量労働制」の適法性と実態
求人票に「裁量労働制」とあった場合、面接での確認が必須です。
- 確認すべきこと: 「始業・終業時間は決まっていますか?」「業務の進め方は個人の裁量に任されていますか?」
- 危険信号: 「定時はあるけど、みなし残業がついているから」といった説明は、制度を誤解(または悪用)している可能性が高いです。
チェックポイント②:クライアントとの契約形態とパワーバランス
その会社が業界の商流の中でどこに位置しているかを確認しましょう。
- 直クライアントか、孫請けか: 商流が下流になればなるほど、納期や予算のしわ寄せを受けやすくなります。
- 契約の管理体制: 「追加修正には費用を請求する契約を結んでいますか?」といった質問で、会社の営業力や法務意識(=社員を守る姿勢)を測ることができます。
チェックポイント③:著作権・ポートフォリオの扱い
これを聞いて嫌な顔をする会社は避けた方が無難です。
- 確認事項: 「退職後、自身の制作実績としてポートフォリオに掲載することは可能ですか?」
- 対策: 可能であれば、入社時の契約書に「個人の実績としての公開は許諾する」旨の条項を入れてもらうのがベストです。
「やりがい」を人質に取られないために
クリエイティブ業界の面接では、ポートフォリオのプレゼンに集中してしまい、労働条件の確認がおろそかになりがちです。また、「権利の話をすると扱いづらいクリエイターだと思われる」という不安もあるでしょう。
だからこそ、転職エージェントの活用を強く推奨します。
エージェント経由であれば、「実際の残業時間の平均」や「離職率」、そして聞きにくい「裁量労働制の実態」や「権利関係のルール」について、あなたの代わりに確認してもらうことができます。
「良い作品を作りたい」というあなたの純粋な思いが、搾取の対象にされないように。 業界の構造的な問題を知り尽くしたエージェントをパートナーに選び、法的にクリーンな環境でクリエイティビティを発揮してください。



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