技術革新が早く、スキルアップや高収入が狙える人気業界ですが、その裏側には業界特有の**「多重下請け構造(ITゼネコン構造)」**や複雑な契約形態が存在します。これらが温床となり、エンジニアが法的な権利を侵害されるケースが後を絶ちません。
「技術が好き」という気持ちだけで飛び込むと、予期せぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。
弁護士が懸念する、よくある「3つのトラブル類型」
IT業界のトラブルは、契約内容と実態の食い違いから生じることが大半です。
1. SES(客先常駐)の「偽装請負」
「正社員として入社したはずが、毎日違う会社に行かされ、他社の部長に怒鳴られる」
エンジニアの働き方として多い「SES(システムエンジニアリングサービス)」ですが、ここには**「偽装請負」**という重大な違法行為が潜んでいることがよくあります。
- 本来のルール: 「請負」や「準委任」契約の場合、指揮命令権(指示を出す権限)は**自社(雇用主)**にあります。常駐先のクライアントが直接エンジニアに指示を出すことはできません。
- 違法な実態: 契約は「業務委託」なのに、実態はクライアントが直接残業を命じたり、業務の細かい指示を出したりしている場合、それは**「労働者派遣法違反(偽装請負)」**です。責任の所在が曖昧になり、労災隠しやハラスメントの温床になります。
2. デスマーチ(死の行進)
「仕様が未定のまま開発スタート。納期直前は月200時間残業で、同僚が次々と倒れていく」
プロジェクト管理の破綻が引き起こす過酷な労働環境、通称「デスマーチ」。
- 要件定義の失敗: クライアントの要望が二転三転し、そのしわ寄せが全て現場のエンジニアに来るパターンです。
- 安全配慮義務違反: 企業には従業員の健康を守る義務がありますが、納期を優先するあまり、不眠不休の労働を強いることは明白な法律違反です。
3. 未払い残業代(年俸制の誤解)
「『うちは年俸制だから残業代は出ないよ』と言われ、深夜対応や休日リリース作業を無償でさせられた」
IT業界や外資系企業に多い「年俸制」ですが、多くの人が誤解しています。
- 正しい法律: 年俸制であっても、残業代(時間外割増賃金)は発生します。
- 注意点: 「年俸に残業代を含む」とする契約もありますが、その場合でも「何時間分が含まれているか」が明記されていなければならず、それを超えた分や、深夜労働(22時以降)、休日労働の割増賃金は必ず支払われなければなりません。「年俸制=使い放題」ではありません。
トラブルを回避するための「弁護士のアドバイス」
ご自身の身を守り、エンジニアとして長く活躍するためには、以下のポイントを必ず確認してください。
チェックポイント①:商流の深さと契約形態
その求人が、業界の「どの位置」にあるかを見極めることが最重要です。
- 商流(階層): 「元請け(プライム)」か、「2次請け」「3次請け」か。商流が深くなればなるほど、マージンが抜かれ給与が低くなるだけでなく、スケジュールの決定権がなくなり、無理な納期を押し付けられやすくなります。
- 開発スタイル: 「自社開発」か「受託開発」か「SES」か。それぞれリスクの種類が異なりますが、特にSESの場合は「指揮命令系統がどうなっているか」を面接で確認する勇気が必要です。
チェックポイント②:プロジェクト管理体制(PMの力量)
「デスマーチ」を避けるためには、現場をコントロールするプロジェクトマネージャー(PM)の質が重要です。
- 確認事項: 「御社のPMは、要件変更に対してクライアントとどのように交渉していますか?」
- 安心材料: 「仕様変更には追加費用とスケジュールの見直しを徹底している」と即答できる会社は、エンジニアを守る体制ができていると言えます。
ブラックSESやデスマ案件を避けるために
求人サイトの情報だけで「商流の深さ」や「実際の契約実態」を見抜くのは、弁護士の私から見ても至難の業です。「未経験歓迎」の甘い言葉の裏に、多重下請けの過酷な労働が隠されていることも少なくありません。
そのため、IT業界に強い転職エージェントを活用することを強くお勧めします。
エージェント経由であれば、以下の「聞きにくい真実」を確認できます。
- 「この案件は何次請けか?」
- 「常駐先の企業コンプライアンスは守られているか?」
- 「実際の平均残業時間と、残業代の支払い実績は?」
技術革新の最前線で働くあなたが、古い因習や違法な契約の犠牲にならないように。 プロのエージェントを味方につけ、契約内容と商流をクリアにした上で、納得のいく転職を実現してください。



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